京都からの夜行バスが扇沢に着いたのが午前6時頃。強い雨脚と小康状態のやや弱い雨とが繰り返される、まあ言えば最悪のコンディションであった。バスターミナルの階段に座って、簡単な朝食をとったあと、上下レインスーツを着て7時前に出発である。 登山口で、テントを構えた係の人が、「この雨で本当に行くんですか、大沢小屋で状況を聞いて、気をつけて行ってください」と送り出してくれた。 大沢小屋までは、雪のない傾斜の比較的ゆるい登りであったが、途中、3回ほど増水した沢の渡渉を余儀なくされた。水流も早く、ちょっと緊張した渡渉になり、靴の中までもびしょびしょになるほどであった。 1時間半ほどで大沢小屋に到着。小屋の主人によると、宿泊客も含めて、続々と登っているとのこと。我々もここでアイゼンを借りて小屋を後にする。 2,30分ほど登ったところから雪渓が始まり、ここからアイゼンをつけて登ることになった。かつて、白馬の大雪渓や剣沢の雪渓を登ったときは、皆が同じ場所を列をなして登るので、ステップができていて登りやすかったと記憶しているが、ここの雪渓では、自然にできた波状のくぼみを銘々が好きなところを登っていくという感じである。それほど歩きにくくはないが、決して快適ではない。 雪渓の登りは、結構キツイ。延々と続く登りの前半は激しい雨で、涼しいどころか寒く、着増ししたいところであったが、この雨脚ではそうは行かない。やがて雨はあがったが、登れど登れど雪渓は続く。
写真クリックで、その写真が拡大され順送りができます。 本ページに戻るには、右上Xボタンか写真の外をクリックして下さい。 雪渓を2時間ぐらい登った所で、左側に夏道が現れ、こちらを登ることにしてアイゼンを外す。3週間前には、小屋まで雪渓を登ったそうだ。最後は急なので、さぞかし大変な思いをしただろう。
夏道になりさぞかし楽ちんだろうと思ったのが大間違い。小屋までの50分間は、急登につぐ急登で、雪渓での疲れも残っているのか、しんどい事この上ない。稜線に張られた綱にたなびく鯉のぼりがなかなか近づかない。テン泊の重い荷物を担いだグループのペースに合わせて、えっちらおっちら。やっと稜線にたどり着くと、そこは針ノ木小屋の裏手にあたり、「着いたーー」。12時45分の到着で、出発から約6時間の苦闘であった。
針ノ木小屋前の広場からは、翌日訪れる予定だった、蓮華の裾から北葛岳、七倉岳に至る稜線、船窪岳がはっきり展望でき、そのはるか向こうには、燕を中心とした稜線や、穂高らしき山が霞んで見えた。今朝からの激しい雨を思うと、望外の喜びである。しかし、今日ピストンするはずの針ノ木岳は、一瞬その姿を見せたものの、濃いガスの中に姿を隠している。
小屋に上がり、食堂で昼食をとるときには、針ノ木岳に登ることはすっかり頭から消えて、おでんにビールで今日のハードな登りをこなした我が身をねぎらったのであった。
夕食時、小屋からの情報で烏帽子岳からの下り(ブナ立尾根)で橋が流失して通れない可能性が大きいという事がわかった。夕食後の三者会談で、船窪小屋から降りるのは中途半端だし、まだ針ノ木岳に登っていないこともあり、逆に種池までの縦走コースに変更しようということになった。このコースは、剣・立山を見ながらの縦走路で、これはこれで魅力がある。
朝6時40分、ガスに包まれた小屋を出発する。ガスの量はそれほど濃いものではなく、時折、蓮華岳や針ノ木岳を望むことができるが、遠くの山は一切雲の中である。登山路は、ハイマツを中心とした低灌木帯をぬうガレ場道であるが、お日様が隠れているので、それほど汗をかかないですむ。1時間15分ほどで、無事真っ白な頂上に立つ。
針ノ木岳の急斜面を下り、このあと、新越山荘まで、スバリ岳、赤沢岳、鳴沢岳と続く大きな峰と、その間の沢山のコブを越えるコースとなる。予想をはるかに超えるハードなアップダウンの多いコースであるが、単調でないだけに精神面での疲れはさほど大きくはない。しかし体力的にはかなり消耗させられるコースである。
途中、前方のガスの中から大きな元気な声で交わす会話が聞こえ出し、これがひときわ大きく聞こえるとピークが近いなというシグナルになり、足取りも軽くなるというものである。追いついて会話をかわしてみると、なんと同じ夜行バスに乗ってきた、大阪の山マダム5人衆であった。新越山荘までご一緒したが、このあと、鹿島槍、五竜方面に抜けるという。経験も豊富で、楽しい人たちであった。
周辺の山並みは、全くといっていいほど見えず、途中立山の雄山の斜面の一部が雲間にチラリとしたのが唯一の展望であった。このまま種池に降りてしまったのでは、何しにきたかわからない。新越山荘のスタッフに聞いてみると、「明日は一応晴れという予報になっています」という答えが帰ってきた。そこで、またまた予定を変更し、この山荘に泊まり、明日の天気に掛けることにした。もし晴れ上がれば、残りの縦走をルンルン気分でこなすことができる。
<続編:その2> 山行記: 針ノ木岳・爺ヶ岳山行記(新越山荘ー種池-爺ヶ岳-扇沢)についてはこちらを御覧ください。
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