蝶ヶ岳山行記
(その2 残雪の蝶ヶ岳編)
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2013年5月22日 蝶ヶ岳登山(徳沢ー蝶ヶ岳-ヒュッテ泊)

 快晴の徳沢を、6:50に出発。徳沢園のすぐ横が登山口であるが、すぐに急登が始まる。雪のない夏道をひたすら登ることになるが、結構急できつい。しかし、朝一番のアルバイトであるので、順調に高度を上げる。樹木が茂っていて、殆ど眺望がきかないが、木々の間から望む明神岳が唯一の慰めである。約1時間の登りで、多少傾斜が緩やかになり、標高1900mを超える頃から雪道が始まる。最初は、踏み抜きそうな溶けかかった雪道であるが、すぐに、よくしまった歩きやすい雪に変わる。しかし、この時期の雪は、どこで踏み抜いてもおかしくない状態なので、樹木に出来るだけ近づかないように気をつける。

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 薄暗い樹林帯の中、結構傾斜のある雪の斜面。薄く残るトレース、木に描かれた赤丸や木に結ばれた赤いリボンのマーカーを頼りに高度を上げるが、次のマーカーがなかなか確認できず、正しいルートを行けばマーカーがあるという感じである。今から思えば、この時サングラスをつけていたのがいけなかったかもしれない。どうしても残っている踏跡を頼りに進むことになり、その踏み跡も迷い迷い進んでいるものもたくさんある。したがって、いつの間にかそのトレースがなくなり、どちらに進んでいいかわからなくなる。
 少し行っては引き返すということを何度か繰り返すうちに、暗い前上方に明るい空が見えるところがあり、それに向けてどんどん登るうちに、全くトレースがなくなってしまった。ウロウロしているうちに、自分が登ってきたトレースもわからなくなってしまった。どちらに行けばいいんだ。薄暗い樹林帯、しかも雪の上。マーカーも見えず、一人、しばしたたずむ。
 やっと登ってきたトレースを見つけ出し、とにかく分かるところまで戻る。かなり下った所で、赤丸マーカーを見つけ出し目をこらすと、薄い正規のトレースが見つかった。時間的にも、体力的にもかなりのロスである。

 やっとかなり傾斜がゆるく、樹木も少なくなり、明るい尾根道に出る。登り始めて3.5時間ぐらい経過したところだと思うが、とにかく時間をトレースする余裕などなかった。ところが、ここからも行程が長く、行けども行けども長塀山に到達しない。まとまった休憩など取っていないのに時間だけが積み重なっていく。
 いいかげん心が折れそうになった時、左が開けた小さな雪原に出た。そして、木の間に槍ヶ岳の勇姿がせまって見えた。マジッ!そのあまりの近さと美しさにびっくりし、初めて余裕の一本をとった。ヒュッテ到着予定の12時をもう回っていた。

 「なんぼなんでもおかしいやろ。もう長塀は過ぎたんとちゃうか」 何故か関西弁が飛び出し、そうこうするうちに樹林帯を抜け出て、雪原の向こうに稜線がパッと目に飛び込んできた。「やっぱりや」 蝶ヶ岳の向こうに常念の頭が飛び出て見えている。そして目を左に向けると、穂高、槍。すばらしい。来てよかった。最高の幸せ。
 そこから蝶ヶ岳頂上への道は、まさに日頃味わうことのできない達成感というか、「やったー」という気持ちである。あの苦しい登りをこなした自分への天のご褒美。快晴の青い空の下、白い峰々が連なる。御嶽山、乗鞍岳、霞沢岳、焼岳、穂高連峰、南岳、中岳、大喰岳、槍ヶ岳、大天井岳、常念岳、蝶ヶ岳。

 蝶ヶ岳の頂上着、12時40分。頂上は、最初無人であったが、三股から登ってきた単独行の男性が元気に姿を見せた。お願いして私のカメラで槍や穂高をバックに記念撮影していただいたが、ピントは山に合っていて、顔も逆光で真っ黒。残念。
 これほど苦労するとは思っていなかったので、頂上を極めた喜びはひとしおである。強い風の中ではあるが、男性が立ち去ったあとも、しばし座り込んで喜びをかみしめた。

 その夜の蝶ヶ岳ヒュッテの宿泊客は、私を含めて3人。徳沢からもう一人と三股から一人(いずれも単独行の男性)であった。徳沢から私の後に登ってきた50歳前の男性とは、迷い迷い登ってきた状況や、何時までたっても届かなくて長く感じられた尾根歩きの状況が共通していて、今日の苦労をわかちあったのであった。
 夜になって強風が吹き荒れ、夕日に照らされた山々を撮ろうと外に出てみると、ダウンジャケットを着ていても寒くて、5分も居られない状態であった。そこで、以下の写真は、夕焼け、翌朝の朝焼けとも、小屋の2階から撮影したものである。窓を開けると、強い風にカメラを持つ手が揺れて、やっと撮ったものである。

2013年5月23日 蝶ヶ岳ヒュッテ-横尾-上高地

 翌朝も快晴。昨日徳沢から登ってきた男性が横尾に下るというので、一緒にヒュッテを出た(6:50)。
 今日の山並みビューも素晴らしい。

 常念方面もよく見るために、横尾への分岐を過ぎて蝶槍に立ち寄り、そこからの眺望も欲しいままにする。

 いよいよ横尾への下りにとりかかる。すぐ雪道になり、特にとっかかりはコチコチに凍っていたので、アイゼンを付けて下る。雪は徳沢コースより深い様だ。赤いマーカーが割と多くて見やすいので、迷うことは無さそうだ。とは言っても、完全に次のマーカーが見えるわけではないので、慎重さが必要だが、途中から若い同行の男性に先頭を変わってもらい、彼が慎重にコースを見分けて誘導してくれたので、すこぶる楽になった。
 時々写真を撮ったり、もたもたする私が遅れがちになるので、先行の男性に、どんどんマイペースで下るようにお願いした。深々と「お世話になりました」と礼儀正しくお辞儀をした後、下りはじめた彼の姿は、あっという間に視界から消えていった。
 このあとの下りも決して楽な道のりではなかった。雪が完全に残っているところはそうでもなかったが、やがて、雪があったりなくなっていたりすると、滑ったり、踏み抜いたりする危険性が高まり、慎重に、慎重に下ることになった。横尾から登ってくる登山者に3人(いずれも単独行の男性2人、女性1人)出会ったが、急勾配の登りにもかかわらず、結構元気そうであった。昨日登るときにすれ違った登山者は1人であったが、この時期こんなものなのだ(こんなに天気がいいのに!)。
 横尾に着く寸前に、思わぬご褒美が待っていた。槍見台というところがあって、急に視界がひらけて槍が展望できる。すばらしい。しばしたたずみ、最後の槍に別れを告げた。
 横尾に降り立ったのは、10:45。分岐から、2時間30分。まあ、こんなものでしょう。

 横尾から、歩きやすい道ではあるが、決して楽しくない3時間の道のりをこなして、上高地へ。そして、いつもの平湯温泉に投宿して、この山旅を終えた。今回も楽な登山ではなかったが、好天気に恵まれ、あの美しい山並みを展望できたことに大満足であった。もうちょっと雪の多い時に、再び訪れることが出来ればと願いつつ、本稿を終える。

<その1> 山行記: 上高地散策編についてはこちらを御覧ください。

<写真集> 上高地散策編   蝶ヶ岳登山編

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