10月中旬の連休後半、美濃戸口から麦草峠まで、八ヶ岳の山々を縦走した。まずまずの天気に恵まれ、富士山、アルプス、奥秩父の山並みなど、360度のパノラマを見ながらの稜線歩きは、素晴らしいものであった。
メンバーは、これまで北アルプス歩きをともにしてきた、長野さん、河本さんと私の3人で、夏の時期に遠征登山を実現できなかった分、大きな期待を持って登山に臨んだ。
私にとっても、大昔、美濃戸からの赤岳、麦草峠からの東・西天狗岳のピストン登山の経験はあったが、あまり覚えていないこともあって、とても新鮮な登山となった。
新大阪駅からの直通バスで美濃戸口入りした我々は、7時20分に出発し、まずは行者小屋を目指す。車道の約1時間は、足慣らしと思いゆっくりと歩を進める。周りの木々の足元は苔が覆った岩が多く、目をいやしてくれる。この時期にしては紅葉した木がほとんどないが、葉が落ちたナナカマドの赤い実が季節を感じさせる。
美濃戸山荘からは、山道に入り、南沢コースを行者小屋に向かう。単調な樹林帯の路を進むうちに、木々の切れ目からあらあらしい岩山のピークが顔を出す。横岳らしい。やがて少しずつ姿を現していた横岳がその岩岩した稜線の全貌を表す。明日あの稜線を行くのかと思うと、わくわくする。
やがて、行者小屋に到着すると、大勢の登山者が小屋前のテーブルで登山前の準備をしたり休息をとっている。 そして、赤岳をはじめ、左に横岳、硫黄岳、右に阿弥陀岳がそびえたち、迫力満点である。登山基地という感じのスポットで、登山気分が盛り上がってくる。
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行者小屋を後にして、いよいよ文三郎尾根コースで赤岳の登りに取り掛かる。樹林帯の中を順調に登るが、樹林帯を抜けるあたりから、登山路に階段が多くなり始め、そのうち、ほとんど階段を登ることになる。鉄製の階段が多く、急な勾配も多いので滑らないように注意が必要である。この階段を抜ければ、普通の山道が待っていると期待して登りきると、またまた、階段が延々と上まで延びている。この繰り返しには参ったが、とにかく一歩一歩足を上に上げないことには登りきることはできないので、我慢の登りが続く。 ようやくのことで、中岳からの路との分岐に出ると、阿弥陀岳の荒々しい雄姿が展望でき、赤岳山頂直下の岩場が眼前に迫る。
岩場に差し掛かると、多少登りにくいところもあるが、鎖に助けられての登りは、階段を登るよりずっと楽である。でも、この高度になると、大きな段差を乗り越えるたびに息切れがして、ハアハア、ハアハアと言いながらの登りとなる。やがて岩場を登りきると、あっけなく赤岳頂上に到着である。残念ながら周りはガスに巻かれていて、展望がほとんどきかない状態である。展望は明日に期待するほかないが、ハードな登りをこなした達成感に浸る。
頂上からは、急勾配の下りを今日のお宿、赤岳展望荘へ向け駆け下った。もう今日はここまで、ほっとするひと時である。展望荘には、大きな釜の五右衛門風呂があり、こんな稜線上の山小屋で汗を流すことができるのは本当にうれしいことであった。また、食事はこれまた珍しいバイキング形式で、疲れた身には食しやすい、甘いデザートをたっぷりいただき、明日に備えて早々と寝床にもぐりこんだ。小屋は意外に客が少なく、ゆったり、静かな夜を過ごすことができた。
朝食を取っていると、東の空が赤く染まってきたので、急いで食べ終えるとカメラを手に小屋の前に。雲海に浮かぶ山々を染めて、朝日が上がるまで、刻々と変わる展望を楽しんだ。今日は天気がよさそうだ。
今日は、展望荘から麦草峠までの長丁場である。多くのピークを経て進む、アップダウンの激しい行程で、若い人でもひたすら歩いて8時間のコースタイムを要する。我々高年グループでは、10時間ぐらい見なければならないであろう。ところが、日の出の素晴らしさを観たり、続く横岳のたくさんのピークピークで写真を撮りながら展望を楽しんだり、たっぷり時間を取ったおかげで、出だしから到着が遅れそうな状態となった。
横岳にはまず地蔵峠まで下り、そこから、数々のピークを、結構スリルのある岩場をこなしながら超えていくことになる。ところが、ピークの上に立つ毎に広がる展望が素晴らしく、感動の連続となる。昨日超えた赤岳など八ヶ岳の峰々はもちろん、奥秩父、富士山、南、中央アルプス、御岳山、乗鞍をはじめとする北アルプス、新潟県、上越、北関東の峰々が360度のパノラマで展開する。それが全部雲海の上に浮かんで見えるという素晴らしさ。ラッキーなことこの上ない。特に赤岳は、こちらの方向から見ることで、よりその素晴らしさを感じることができるような気がする。
硫黄岳は横岳と打って変わって、大きな平らなお盆を伏せたような形状で、平和そのものの容姿をしている。その手前のコルの部分に硫黄岳山荘が、風をよけるように身を低くしてたたずんでいた。人の気配もなく、静かである。ここで、後になり、先になり横岳をともに制覇してきた母娘二人パーティーと言葉を交わし、記念撮影を取ったりして交流した。うらやましくも、美しいコンビである。
硫黄岳への登りは、傾斜も緩やかで、小さな岩が敷き詰められるようになっていて登りやすい。しかし、こんな単調な登りの方が、実はつらい。ひたすら登って頂上に立つとすこぶる眺めがよい。また、山容に不釣り合いな爆裂火口後の荒々しさが目に飛び込んでくる。ここで、赤岳を中心とする南八ヶ岳の山並みを身近に見るのはお別れである。
硫黄岳から北側を眺めると、夏沢峠までの大きな切れ込みと、その向こうの大きな山塊が目に飛び込んできた。やれやれ、まだまだ過酷な縦走路が待っている。予想通り、硫黄岳からの下りは結構急で、長い。300m以上の高度を失うことになった。夏沢峠には、夏沢ヒュッテがあったが、ここで、小屋締め後とあって我々以外は誰もいない寂しい休憩を取った。
夏沢峠からは箕冠山への登り返しがあったが、ここは比較的ゆるやかなシラビソ樹林帯の登りで、今日の登りで一番平和な登りであった。しかし、登りであることには変わりがなく、我慢の登りを続けていると、木々の間から根石岳とその向こうの天狗岳の雄姿が目に飛び込んできた。あれを登る期待感が湧き出るとともに、まだまだ大変だという、やれやれ感が漂う。
箕冠山の山頂らしきところには、案内板があったが、眺望は全くきかないので、早々に根石山荘にまで下り、ここで早めの昼食を取った。仲間は、うどんやラーメンをうまそうにすするが、私はそれほど食欲が出ないので、甘酒と携帯したパンで済ませた。
根石岳への登りは、大した高度差はないが、疲れてきた身には応える。まあ、迫りくる天狗の登りの前哨戦という感じである。根石岳に登り始めると、東西の天狗岳が迫ってきて気分は高まるが、結構急傾斜の昇り降りを要し、余分なこぶをこなしている気分でもある。
根石岳を超えると、いよいよ東天狗岳への登りである。今日最後の大登り。疲れた身を鼓舞して汗をかく。登るにつけ、展望も開けてくるが、カメラを構える気力も薄れている。ただひたすら登る。登り終えると、間近に西天狗がそびえ、南八ヶ岳方面や遠くの北アルプスの展望も見事である。また、これから行く、北方面の大きなピークのない平和な展望が広がるが、今日の最終地に近い白駒池がはるか遠くに見える。
西天狗は大昔ピストンしたことがあるので、というよりは、疲れていてとても行く気にはならないので、省略して中山峠へと下る。そしてあとはひたすらゴールを目指す。中山峠から中山への最後の登りをこなすと、展望の全くない樹林帯の中に頂上があった。でも、この方が、広島の多くの山の頂上に似ていて親近感を覚える。
中山から、高見石ヒュッテまでは、ごろごろ岩の散在する下りが延々と続く。最近雨が降ったと見えて、岩が濡れていて滑りやすく、疲れた身にはとてもハードで、心身ともへとへとになって高見石ヒュッテにたどり着いた。ここで、予約している麦草ヒュッテに電話を入れて、あと1時間ぐらいかかりますよと、連絡を取る。
高見石からはなだらかなコースを選び、白駒池に下り、白駒池の紅葉を愛でる。雲が垂れ込んできて、やや薄暗く感じる状態であったのがちょっと残念であったが、見事に色づいた木が湖畔を彩っていた。以前訪れた時の見事な紅葉が、よみがえってくる。
薄暗くなりかけた麦草ヒュッテに着いたときは、長い山旅を終えた達成感というよりも、ホッとしたというのが本音である。高年登山者にはちょっとハード過ぎるコースだったかもしれない。ヒュッテは、我々も含めて3パーティーの客しかいなくて、何十人か入りそうな大部屋に3人だけという静かさであった。食事の後、ゆっくり入浴し、爆睡した。
翌朝、快晴の麦草峠を後にし、蓼科山や縦走した八ヶ岳を眺めながら茅野に出て、広島に帰宅した。今回は、ハードな山旅で、最後は本当に疲れたが、それでも楽しく、それだけに思い出に残る山旅となった。
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