半世紀近く前、大学の仲間3人と剣・立山を縦走したことがある。 その時は、阿曽原から剣沢を詰め、剣・立山を制し、一の越から室堂に降りた。 私は体調不安があった(登る前から不安を抱えていて、その後2度の入院を強いられた)ので、一の越で下山したが、仲間はそれから薬師、雲ノ平、槍を経て上高地まで縦走した。 まだ横長キスリングを背負ったカニ族の頃である。
ところが私の中では、剣登山の記憶がほとんどない。 天気が悪かったこともあって、眺望の無い中をひたすら登り、下山したのであろう。 岩場が怖かったという記憶もないし(カニノヨコバイをどこで通過したのか当時でもわからなかった)、制した感動も残っていない。
剣をしっかり味わいたい。 と、言うわけで、いつもの長野さんとの二人連れで出かけることにした。 室堂から雷鳥坂を登り、剣山荘まで入り、翌日剣に登り、別山乗越の剣御前小舎まで。 3日目は、立山を縦走し一の越から室堂に降りた。 素晴らしい天候に恵まれ、感動の登山となった。 やはり、剣はすばらしい。
京都から夜行バスで室堂に入り、室堂ターミナルを出発したのが、7時40分。 天候は曇りで、急斜面を登るには好都合である。 雷鳥平のキャンプ場までは、やや下りの40分。 そこから、約500mの高低差を一気に登ることになる。 ジグザグの急坂が途切れることなく続き、かなり苦しいが、まだ初日のせいか、余力が感じられ顎を出すほどではない。 見下ろせば、残雪が残る室堂平が美しい。 雪渓の残っているところもあったがアイゼンを付けるほどのことはなかった。 雷鳥平からちょうど2時間ほどで剣御前小舎に到着、しばしの休憩を取る。
剣御前舎から剣山荘までは、だらだらと下る約一時間の行程である。 しかし、途中に数か所、雪渓のトラバースがあり、滑落したらどこまで行くのかと思わせるものもある。 剣御前小舎から剣山荘への分岐点に、「アイゼンの無い人、雪道に自信のない人は剣沢小屋経由で行きなさい」という趣旨の看板があったほどである。 我々は二人ともアイゼンを持参していたので、剣山荘へ直行したが、雪渓には、数人の作業者が(どこの人?)大きなシャベルで足場を切っていてくれたので、アイゼンなしに無事通過することができた。
11時45分、無事剣山荘に到着。 小屋の牛丼で昼食をとり、ゆっくり過ごしたが、夜行疲れもあったのか、よくこれだけ寝られるものだと思うほど、昼寝を繰り返した。
剣山荘は比較的新しく、シャワー、飲み水もあり、一人分のスペースも大きくて大変快適な山小屋である。
日の出前の4時40分、剣山荘を出発する。 天気はほぼ快晴、すこぶる気持ちがよい。 朝日に急勾配の道を登ること25分、一服剣の頂に着く。 前剣の屏風のように立ちはだかる岩壁が目に飛び込む。 すごい迫力である。 見渡せば、遠くに朝日に輝く五竜、鹿島槍。 そして、立山別山。 なるべくこちらを眺めるようにして一服である。
写真クリックで、その写真がフルスクリーンで拡大されます。 本ページに戻るには、拡大写真外か右上ボタンをクリックして下さい。 前剣への登りは急峻な崖を、随所に設けてある数珠つなぎの鎖を頼りに登ることになる。 足場はしっかり確保できるので、危険は感じないが、体を持ち上げるたびに息をつめたりして呼吸が不規則になり、結構疲れる。 登りきると、眼前に迫る剣の雄姿が素晴らしい。 遠くの山々も雲の上に顔を出している。 しばしの写真タイムである。 前剣到着6:00。
前剣の下りは、またまた数珠つなぎの鎖の連続で急な道を下る。
前剣を下ると、そこから結構タフな登りが待っている。 剣岳と言うと、岩場を登るというイメージがあるが、一服剣、前剣、いくつかのこぶの上り下りがかなりきつく、むしろそちらに体力を消耗してしまう。 もちろん、岩場の鎖場のスリルの度合いもだんだんとましていき、平蔵の頭を超え平蔵のコルに達すると思わず休憩を取りたくなる。 7時過ぎ到着。
平蔵のコルから、いよいよ「カニノタテバイ」である。 取りついている先行者も少なく、待ち時間なしですぐに登り始める。 鎖、岩の出っ張り、鉄杭の組み合わせで3点支持を確保して、かなり急な崖を登ることになる。 それほどの怖さは感じないが、とにかくここをクリヤーしようと夢中で登ってしまう。 途中2カ所ぐらいであったろうか、3点支持をどのように取ったらいいか迷うところもあったが、あっという間に(と感じる)この鎖場を抜け出す。 あとは、鎖の無い急斜面をしばらく登り稜線に出ると、頂上は間もなくである。
ここまでよく登ってきたものだという感動に包まれて頂上に達すると、360度の大展望が待っていて、喜びもひとしおと言うところである。 しかし、先着の皆さんは意外に静かに座っていて、はしゃぐ私たちを静かに見守っていてくれる。 彼らとて着いた直後は嬉しかったに違いない。 後から着いたパーティには、手を取り合って万歳をする人たちもいた。 頂上到着、8時。
後立山連峰から立山連峰、その向こうに槍、穂高等が雲海の上に姿を見せている。 大日岳も見下ろせる。 素晴らしいの一言である。 しばし感動の時に身をゆだねる。
長い感動の時を過ごして、いざ下山と言うことになると、待ち受ける厳しいであろう岩場のことが頭をよぎり、緊張が高まる。 頂上から下り始めるとすぐにカニノヨコバイの表示がある。 いよいよ有名な岩場の通過である。 ほぼ垂直に鎖を頼りに下っていくと、真横に鎖が張られていて、まず第一歩は、その鎖を頼りに体半分ぐらい降りなければならないことになる。 鎖につかまりながら見下ろすと、左足の最初の踏み場は見えている。 しかし、次に右足を確保する場所が確認できない。 皆んなここを通過しているのだから、何とかなるだろうと左足を確保して鎖にぶら下がると、右の下の方に小さな踏み場が見つかり、無事ここを通過することができた。 しかし、その時のスリルは相当なものであり、私が昔ここを通過したことを全く覚えていなかったのは信じられないことである。 ヨコバイもここをクリヤーすれば後はそれほどのことはないが、はしごや鎖を頼りの垂直に近い下降には緊張を強いられる。
ヨコバイを過ぎると、来た時の帰り道であるので様子がわかっていることもあり、だいぶ緊張が解け、鎖場もさほどのスリルを感じなくなってきている。 振り返れば、今征服したばかりの剣の雄姿がなお一層重みを帯びて見えてくる。 何度も振り返り、感動、感動の下りであった。 平蔵の頭あたりで剣を振り返っていると、これまた感激に包まれた二人組の山ガールが追いついてきて、お互いの写真を取り合いしばしの交流を果たしたが、すぐさま追い抜いて降りて行った。 我々老体には、前剣、一服剣の上り下りには相当きついものがあって、むしろ下りの方が時間がかかってしまったようである。
剣山荘に着いたのが11:40。 途中途中、特に頂でゆっくり休憩を取ったせいか、往復でちょうど7時間であった。
剣山荘で、昼寝付のゆっくり休憩を取った後、今日のお宿、剣御前小舎に向かった。 だらだら登りの1時間余りは、疲れた身には結構つらかったが、雲に見え隠れする剣の雄姿を見返りながらの道のりであった。 剣御前小舎では週末ということもあり、かなり混雑していたが、10人部屋に6人と比較的恵まれた状況であった。 和歌山から来た賑やかなパーティー、同部屋の人たちと楽しいおしゃべりをして過ごしたり、きれいな夕日を拝んだりして充実した一日を終えた。
続く 引き続き、立山連峰編をお楽しみください。 写真を一括してご覧になりたい方は、 こちら をどうぞご利用ください。
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