梅雨間の火打山、妙高山

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 例年8月の初旬に北アルプスに出かけるのが最近の年中行事になっているが、今年は何となく他にも行きたくなり、インターネットで調べているうちに、広島のひろでん中国新聞旅行の登山ツアーに「妙高・火打」とあるのを見つけた。 団体ツアーで登山した経験は無いが、行き先が魅力的なことと、ツアーなら、最近私の単独登山を不安がるようになった妻の手前もよろしかろうと参加することにした。

 ツアー参加者は、夫婦連れが3組、女性の仲間3人組と2人組みに、単独参加の女性1人と私の13人であり、丁度良い、和気あいあいとした団体であった。 これに添乗員の登山随行が2度目というニューフェイスの若き女性と、われわれが登山の前後に宿泊したペンション、モンセルバン(ホームページ)のご主人で山岳ガイドの敷根さんの15人パーティーでの登山であった。

2004年7月11日 笹ヶ峰 - 高谷池 - 火打山 - 高谷池(ヒュッテ泊)

 この山行を申し込んだときから、雨に降られることを覚悟はしていたが、やはり、梅雨の合間でも晴れるかもしれないという期待が無いことは無かった。 しかし、笹ヶ峰の駐車場を出発するときは、やはりというか当然というか、土砂降りに近い雨で、カッパに身を包んでの出発となった。 リーダーの敷根さんも「とにかく高谷池まで行ってみましょう」と言うしかないという状態である。 しかも天気予報は「大雨、洪水、雷雨注意報」を告げていた。

 リーダーを先頭に、添乗員さんを最後にして隊列が組まれ、私は添乗員さんの前を終始歩くことになった。 隊列は粛々と進むと思いきや、歩き始めるとまもなく、道の両サイドに現れる花に話題が盛り上がり、花の咲いていない葉っぱまでに皆の話題が展開されていく。 私と添乗員さんを除いては程度の差はあるにしても皆結構花に詳しくて、聞いたことも無いような花の名前が飛び交う。

 心配された雨もたいしたことは無く途中でカッパも脱げるようになり、そして相変わらず花の話題に盛り上がりながら隊列が進む。 単独行であれば、すぐにでも追い越させてもらいたくなるようなゆっくりペースであるが、リーダーの絶妙なペース作りに疲れも感じず、隊列に乱れも生じない。 この山行を通じて、終始全体を把握し隊列に全く乱れを生じさせず、しかも、予想する時間とそう狂いなく目的点に到達させるリーダーの采配ぶりには感服させられた。 急登の12曲がりもいつの間にか過ぎ、富士見平に着くころには、隊列に一体感ができあがり、息の上がりかけた人や足がつった人への思いやりも自然に生じる。 いつも単独で行動している私には、温かみを感じるし、心強くも感じる。 しかし、雨は降っていないものの回りは真っ白の状態である。 まあ、考えようによっては、強い日差しに悩まされずにすんで良かったかも知れない。 芽吹き間もない木々の新緑が目にしみる。

 4時間あまりで高谷池に到着。 まずまずのペースである。 今日の宿泊地高谷池ヒュッテで、ペンションで用意してくれたお弁当の昼食をとる。 実にうまい。 昼食もそこそこ、雨の降らないうちにと、身軽になって火打ち山へのピストンに向かう。 ここ高谷池と、ちょっと登ったところにある天狗の庭は実に美しい湿原である。 湿原の周りはお花畑になっていて色とりどりの花が咲き誇っている。 同行の皆が花に興味を持っていて楽しんでいたせいもあり、これほど沢山の花に目を転じたのは私にとっての初体験であった。

 火打山は結構奥深い山で、天狗の庭を通り過ぎるとただひたすらの登り道となる。 最初の登りかけは石楠花やいろいろな花の群落を楽しむ余裕があったが、ペースをやや上げたリーダーについて黙々と隊列が進む。 小雨がぱらつく霧の中を、ただひたすら頂上を目指して登る。 めったに他の登山者に出会うこともなく、一人だったら引き返したくなるような寂しさである。 雷鳥平と木階段の下で2回の休憩を取っただけで、リーダーの「あと一息」という言葉にこころよくだまされながら足を前に出していると、前の人たちから歓声が上がる。 頂上である。 一人ひとり全員に握手するリーダーにもほっとした笑顔が漂う。

 妙なもので、全く眺望のきかない頂上でも、極めてみるとそれなりの満足感が身を包む。 この天候では頂上まで行くのは無理かと思っていたからなおさらである。 みんな、笑顔、笑顔。 頂上からの帰路も自然と足が出るような快調ぶりであったが、上から見下ろす天狗の庭、高谷池には、その景観に息を呑むものがあった。

2004年7月12日 高谷池ヒュッテ - 妙高山 - 燕温泉

 朝早く目覚めてみると、なんと青空が広がっていて、快晴である。 昨日は全く姿が見られなかった火打山が朝日に輝いて見える。 ヒュッテの食堂からは後立山連峰を間近に、北アルプスが連なって見える。 昨日はザックの中で眠っていた我が愛器を取り出し、夢中でシャッターを切る。

 早い朝食をとり、再び隊列を組んで妙高へと向かう。 黒沢池へは軽い峠越えといった感じで、朝一番のアルバイトとしては丁度良い。 期待通り、登りながら振り返ると、火打の女性的な姿と後立山の遠景が見事である。 黒沢ヒュッテは黒沢池のほとりにたたずむドーム状の建物で、ここで2匹の大きなシェパード犬とたわむれながらしばしの休憩を取る。

 ここから道は妙高外輪山へのきつい登りとなる。 とにかくここに限らず妙高への登り降りの道の悪さといったらない。 大小のごろごろした岩が不規則に、しかも急勾配で連なり登山者を苦しめる。 約30分のきついアルバイトで外輪山の鞍部である大倉乗越にたどり着くと、ようやく妙高の勇姿が目前にせまってくる。 麓から見ると男性的な山に見える妙高も、ここから見ると頂上までが木で覆われていて、北アルプスの山々のような荒々ししさが感じられない。 しかし、その登りのきつさを後で思い知らされることになる。

 ここから道は急勾配をもったいないぐらい下ることになる。 山の縦走で、次の山の頂を見ながら、どんどん下っていくときの悲しさはたとえようがない。 黒沢から登った140mをここの下りで100mキャンセルすることになるのだ。 しかも、本格的な登山が初めてと言う添乗員の若き女性が、この辺から私の毒舌気味の軽口に対して逆襲に転じ始め、私を疲れさせる。 とにかく彼女は、登りのきつさを全く感じないように見える。 終始、最後尾を平然と付いてきて、皆に対する気配りも忘れない。 将来は立派な山岳随行員になること間違いなしである。

 外輪山を下りきり、しばらく巻き道を行くと小さな雪渓にたどり着き、ここからいよいよ最後の登りが始まる。 標高差400m、普通の山道ならそれほどのことはない。 しかし、名うての悪路である。 一歩一歩身体を持ち上げるのに多大なエネルギーを要する。 いつものように、単独行でここを登っていたら、かなりあごを出していたに違いない。 しかし、悪路なるがゆえに団体として登るとどうしても約半分の時間は待機しているようなペースでの登りとなり、このおかげで、あまり疲れを感じない。 また、暑さが厳しくなかったことも幸いしたように思う。 3年前に薬師沢から雲ノ平への悪路を登った時のあの辛さに比べれば何と言うことはない。 上が開け稜線に出ると緩やかなのぼりとなり、やがて頂上である。 残念ながら雲が広がり、十分な眺望はなかったが、後ろ立山連峰が垣間見られ、梅雨時の登山としては言うことなしである。

 頂上で高谷池ヒュッテで渡された昼食をとる。 なんと、レトルトの赤飯一袋だけである。 頂上に達したお祝いという意味だろうか。 お餅をかじるような感じでぺろりと平らげる。 頂上には珍しくも花が咲き誇っていて、疲れを和ましてくれる。

 妙高からの下りは長く辛いものであった。 急勾配を下っても下っても麓に届かないという感じで、夏季や土日に動くというゴンドラが今日は使えないということもあって、妙高登山が相当タフであったと印象付けるものとなった。 途中の鎖場で3人の若い男女の外人さんと出会ったが、ランニングシャツに短パン姿、足にはちょっとましなスニーカー、持ち物なしといういでたちながら、にぎやかに軽やかに登ってゆき、われわれが苦しんでいる下りを頂上をピストンしてあっという間に追い越していった。

 この下りで大きな素晴らしい2つの滝に出会った。 称名、光明の滝である。 どっちがどっちだか忘れたが、下の方の滝は落差も大きくほぼ垂直に豪快に落ちている。 この滝の上を巻いて山道は下るのだが、覗き込むと真下に滝つぼが見えるという怖さで、思わず身体の重心が右に傾く。 所々で硫黄の温泉臭が漂う中を、露天風呂とビールを思い描きながらただひたすらの下山であった。

 燕温泉で出迎えのバスに乗ったときはやれやれというところであったが、露天風呂で汗を流した後のビールのうまさは格別であった。 美しいオーナー奥さんの用意してくれたペンションでの夕食は素晴らしいもので、歓談は遅くまで続いた。 

 今回はじめてツアーに参加したが、ツアー慣れした他のメンバーと楽しく過ごすことができた。 あれほどタフな山行もそれほどつらいものにならず済んだのも、団体行動のおかげであろう。 往復の長い長いバス移動にもかかわらず、この山行がとても良い思い出になったのも、同行諸氏のお陰と感謝の気持ちでいっぱいである。 キヌガサソウ、これだけは名前覚えました。


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