去年、ひろでん中国新聞旅行のツアーで中央アルプスに登頂したとき、帰りのバスの中で、来年は鳳凰三山に行きましょうと盛りあっがたのがきっかけで、今回の参加となった。 梅雨時の企画なので、見送ろうかとちゅうちょするところもあったが、思い切って参加したところ思いがけない好天に恵まれ、新緑の南アルプスを満喫することができた。
ツアー参加者は、夫婦連れが3組、いくつかのグループ参加の女性が11人、個人参加の男性が5人、合計22人の参加者に加えて、ガイドさんと添乗員さんを加えた24名のパーティーであった。 今回は特にベテランぞろいであったのと、以前ツアーでご一緒した多くの人と再会できて、楽しい山行となった。 6月25日、芦安温泉に入り、翌日からの山行に向けて満を持して温泉とアルコールで親交を深めた。
夜叉人峠登山口に小型バスで到着したときは、小粒の雨がぱらつく程度であったが、一応全員がカッパ着用での出発となった。 シーズン中ならばごった返すであろう登山口も、その日は我々のパーティーだけという静けさであった。 この日の行程のほとんどは、樹林帯の中をひたすら登ることとなり、登山口から薬師岳小屋までの高低差は1330mである。 全コース手入れが行き届いていて非常に歩きやすく、特に夜叉人峠までは道幅も広く遊歩道のような感じである。
普通山の斜面と言うものはジグザグに折り返して登るものだが、ここは、折り返しがまったくなく、どこまでも続く緩急斜面を登っていくことになる。 両サイドに広がるまだみどり浅き葉を付けたカラマツ林が本当に美しい。 木々の太さがそろっていて、はじめは太く大きな木々であるのが、高度を上げるにしたがって細くなってくる。 しかし、美しい。 この感動がなければ、あまりの単調な登りの連続に嫌気がさしていたであろう。 雨もさほどのこともなく、暑さもあって、途中でカッパを脱ぎ捨てての登りである。
女性ベテランガイドさん(富山さん)のきざむ安定したペースに隊列も粛々と進む。 今回のメンバーはベテランぞろいのせいか、ところどころに咲き誇る花々に対しても余程のことがない限り騒がず登る。
1時間余り登ったところで、あまり広くはないが木立の途切れたスペースに出た。 夜叉人峠である。 ここまでの標高差390mの登りは今日一番の急傾斜となる。 晴れていれば見えるであろう山々は厚い雨雲のかなたである。 あやめが丁度咲き誇っていて、一汗かいた我々を迎えてくれた。
ここからも樹林帯の登りが続き、約2時間で杖立峠、さらに約2時間で苺平を通過する。 峠とか平と言っても、ほんのわずかなスペースがあるだけで、とても到達した感じがなく、単なる通過点と言ったところである。 ただ、木々の緑の新鮮さに目も心も和ませてもらえることがうれしい。 湿気が多いせいだろうか、たくさんの木の枝からサルオガセというふわふわ状態のコケのようなものがぶら下がっている。
苺平から緩斜面を30分ほど下ると、南御室小屋である。 長い登りで到達したオアシスと言った感じで、くつろいだ昼食となる。 小屋で調達したカップラーメンとコーヒーがうまい。
南御室小屋からは再び登りとなり、またまた、樹林帯の中を進む。 一時間も登ったところで森林限界となり、巨岩が立ち並ぶ稜線に出た。 巨岩の間に咲く花々を楽しみながら進むと、霧の漂う浅い谷間の向こうに薬師岳が顔をのぞかせた。 谷間に下ると、木々に囲まれた今宵の宿、薬師岳小屋に到着した。
薬師岳小屋での宿泊は、私たちのほかに東京からの9人パーティーだけであったが、それでも食堂が満員になるほどのこじんまりした小屋である。
夕方には空が明るくなり、明日に期待というより、祈る気持ちで早寝する。
朝起きてみるとなんと空は明るく晴れている。 4時30何分かの日の出に間に合うようにカメラ片手に薬師岳に登る。 頂上付近に雲をのせた白峰三山が間近に見える。 そして、富士山。 霞がかかったようで、くっきりとはいかないまでもその全貌を現している。 秩父の山々も遠望できる。 行く手雲間には仙丈ヶ岳、間近には観音岳。 そして雲間に真っ赤な太陽が現れ、山々を赤く染めていく。 すばらしい日の出であった。
今日のコースは、昨日たくさん登ったご褒美と言ったところか、高低差の少ない稜線歩きと、こぶのような三山めぐりである。 天気もよし、だけかんばの新緑が燃える稜線歩きはルンルン気分である。 薬師岳へは小屋から10分。観音岳には1時間足らずで到達する。 観音岳頂上に近づくと、彼方に異様な形でそびえる地蔵岳のオベリスクが見える。 そして、観音岳の頂上に立つと、甲斐駒ケ岳の雄姿がせまる。 オベリスクと並べて眺める贅沢さには、しばし言葉を忘れて立ち尽くすほどであった。
観音岳から地蔵岳へは1時間足らずかかったかもしれないが、景色を楽しんでいたせいか、ほんのわずかであったような記憶しかない。 特にだけかんばの新緑越しに見るオベリスクの圧倒するような異形さは、何度眺めても飽きないものがあった。 地蔵岳を間近に見る赤抜沢の頭、賽の河原と続く稜線歩きは散在する巨岩と周りの山々を満喫できるご機嫌コースであった。
賽の河原には、子宝を祈願し1体を持ち帰り、成就した人たちが2体持って上がったというお地蔵さんたちが立ち並んでいた。 駒ケ岳を背にして立ち並ぶそのお姿には心和ませる風情があった。
地蔵岳では、オベリスクの肩までよじ登り、多少岩登りのスリルを味わうことができた。 ここは、周りをぐるりと回れそうであったが、下から見上げているガイドさんのそこまでにしてくださいと言う心配そうな声で、実現はできなかった。 しかし、オベリスクの肩までよじ登り、周りを眺め回わすことができたのは、望外の喜びであった。
地蔵岳を後にしたのは、10時半ごろ。 もう、夏を思わせる日差しに輝くだけかんばの芽吹き。 砂に心地よく足をとられながらのくだりが始まる。 ところが、快適さもここまで。 厳しい、長い長いドンドコ沢の下りの始まりだったのである。 とにかく急である。 悪路である。 木の根が邪魔である。 それが、どこまでも、どこまでも続く。 お地蔵さんを抱えて、ドンドコ太鼓をたたきながら往復した子宝祈願の人たちの苦労と言うか、執念を感じる。 これほどの執念が今の日本人にあれば、少子化問題など起こらないであろう。
1時間もかからないで到着する鳳凰小屋まではまだそれほどでもなかったが、それからの長い道のりでは、だんだん体力も脚力も消耗してきて、最後はよろけそうになりながらの下りであった。 眺望のない樹林帯の下りながら、大きな立派な滝のいくつもを、丁度いい塩梅の間隔で間近に眺められたのは、苦しい中での救いとなった。 (右写真:五色滝)
鳳凰小屋から、御座石温泉に下る道もあり、そちらを下ったほうが道が良く、下りやすいと聞いたが、滝を見るにはドンドコ沢のほうがよさそうだ。 しかし、下りで会った登山者が、単独行の男性だけであったことから考えて、この道は敬遠されているのかもしれない。
とにかく、青木鉱泉にたどり着いたときは、宿のナイス風情もあって、達成した喜びとほっとした感情に包まれて、宿前のベンチにザックを投げ出したのであった。
温泉とビールと山菜で心身ともに癒した後、早々と床につき、ばく睡したが、ほかの男性陣は、消灯まで大宴会を催したらしい。 今回の参加者もお酒に強い人ばかりで、というより、お酒を飲みたい人ばかりで、毎晩酒盛り状態。 山行の楽しさが、お酒で倍化するのだから、山も、お酒もやめられないというところだろうか。
今回のツアーも楽しい、楽しい山行となった。 安心してついていけるガイドさん、心強い男性ベテラン添乗員さん、そして、愉快な参加者の面々。 心から感謝して、本稿を締めたいと思います。 参加メンバーの集合写真はこちらです。 その他写真をフォトギャラリーにしてみましたので、そちらもお楽しみください。
このページの写真を含めて、山々の写真をアルバムにしています。 こちらをどうぞ。