黒部五郎岳山行紀

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 梅雨明け宣言直前の北アルプスへ。 久しぶりの北アルプスである。 これまでは、北アルプスは、単独行で出かけていたが、今回は会社の元同僚で若干私より年下の長野さんが一緒である。 彼も元は会社山岳部に所属していたが、長らく山から遠ざかっていたところを、私が火をつけたのである。 とにかく心強い同行者に恵まれ、辛いところでも頑張りがきいて、楽しい山行ができた。 今回のコース予定は、折立ー太郎平ー黒部五郎岳ー三俣山荘ー双六小屋ー槍ヶ岳ー上高地である。
 7月30日、広島を出て、富山駅前のホテルに泊まり、6時発の折立直行バスに乗り出陣である。

2007年7月31日 折立ー太郎平ー太郎平小屋(泊)

 朝8時、折立登山口を出発。 天気は快晴で暑そうである。 樹林帯の中、歩きやすいジグザグの土道。 これで、ここは2度目の登りになるが、急登の割には登りやすい。 夜行ではなかったので、快調に高度を稼ぐ。 あれっ。 もう着いたのと言う感じで、突然樹林帯を抜け三角点に到着する。 1時間25分と言うところであろうか。 並ぶベンチには、何パーティーかの人たちが休憩をとっている。 日差しはきついが、それほど温度は上がっていない。 前回ここに来た時は、とにかく暑くて、閉口したものだ。
 薬師もその雄大な姿を現している。 ここからは緩斜面を登ることになるが、日差しをさえぎるものがなく、結構苦労した覚えがある。 今日も快晴、雲ひとつない。

  

 前回感じた暑さ程ではないにしろ、強い日差しの中をひたすら登る。 昼前には今日の宿、太郎平小屋に到着した。 水晶、ワリモ、鷲羽、三俣、双六、黒部五郎などが間近に迫って見える。 雲ひとつない。 大パノラマである。




 前回は、ここからさらに薬師岳まで足を伸ばしたが、今回は明日の長丁場を考えて午後は太郎平の散策程度でゆっくり過ごす。
 同宿の、スゴ乗越から薬師を越えてきた陽気な人たちが、早々とビールで出来上がり、広場で大声で歌っている。 昔懐かしい山の歌である。 夕焼けをみんなで見た後、早々と眠りにつく。

2007年8月1日 太郎平小屋ー黒部五郎岳ー五郎平ー三俣山荘(泊)

 朝4時20分。 多くの人たちがまだ眠っている太郎平小屋を後にする。 今日も快晴であるが、風が強く、寒い。 ウインドウブレイカーをつけての出発である。 長い緩斜面のアップダウンではあるが、約300m登って、2時間が経過したところで、北ノ俣岳の頂上に達する。 風が強くゆっくりもできない。 何とか、頂上を越えたところで、風除けのハイマツのあるくぼみを見つけ、朝食の握り飯にありつく。 この後、今日の行程のほとんどをともにすることになる、単独行の若者と、夫婦連れが挨拶をして通り過ぎてゆく。
 北ノ俣岳から、赤木岳、中俣乗越と、風さえなければ、のどかであろう緩斜面を行く。 快晴の青空。 周囲の山々が惜しげもなくその全貌をさらしている。 振り返れば薬師の雄姿、前方からは、笠、乗鞍、御嶽が三重連で迫ってくる。 黒部五郎の手前で、大きく高度を下げると、黒部五郎への登山路がはっきりと現われてくる。 おっと、これはきつそうだ。

  

 黒部五郎岳への最後の登りは、期待にたがわず相当きつい。 ゴロゴロ石のジグザグ道が登れど登れど先が湧いて出てくるような気がする。 まだ写真に収めていないような花が見つかると、しめたとばかりに休憩を兼ねてカメラを向けるが、あとはひたすら登る。 後ろからは、長野さんが黙々と続いてくる。 一人であったら、腰に手を当てて休みたいところを、押されるように登りを続ける。 彼とて相当つらいはずである。 もう休みを取ろうかと思いつつ上を向くと、夫婦連れが頂上下の肩に到達してこちらを向いて手を振っている。 あと一息。 なんとかあそこまで。 やっと着いたカールへの分岐では、何人かの人たちが休憩をとっていた。 ザックを下ろすと、浴びるように水を流し込む。 太郎平から5時間弱。 だいたい、コースタイム通りである。
 ここにザックをデポして、休む間もなく頂上へ。 頂上では、ご褒美の360°大パノラマ。 周辺の山々はもちろん、薬師と水晶の間に赤牛、立山、剣、後立山の山々がのぞいている。 振り返れば、御嶽山、白山も。 にわか知り合いのパーティーどうしで写真の撮り合い。 山頂に到達したときに味わえる幸せなひと時である。

 山頂からは、尾根道を下るコースもあるが、カールを下るコースを選ぶ。 まだたっぷり雪を残したカールの眺めは素晴らしい。 険しいアルプスの山々に囲まれた憩いの場所と言う感じがする。 雪解け水も豊富に流れていて、渇いたのどをいやしてくれる。 ここを下ることの幸せをかみしめていると、単独行の青年が雷鳥を見つけ、教えてくれる。 この時期に多い、母鳥と、6,7匹の子供連れである。 しばし彼らと交流する。
 しかし、高低差はそれほどないにしろ、ここまで長い距離をこなしてきているので、五郎平までがやけに長く感じる。 谷間のオアシス的な黒部五郎小舎に着いた時は、本当にほっとした。 ここで、太郎平小屋で作ってくれたちまき弁当をたいらげる。

 五郎平から、三俣蓮華岳への登りは、黒部五郎方面から見て結構きつそうだとは覚悟していたが、取りついてみると、想像以上にきつい。 もうすでに体力が相当消耗していることもあるが、とにかく急な登りには悩まされる。 ゴロゴロ岩道を喘ぎ喘ぎ登っていると、我々よりはるかに重いザックを担いで、追い越していく人たちがいるのには驚かされる。
 黒部乗越まで登ると、三俣蓮華岳を巻いて三俣山荘に抜ける道が分岐している。 これから三俣蓮華岳越えで双六小屋まで行くというパーティについて行きたいところではあるが、疲れていることもあって、ここは、予定通り巻き道を選択する。
 この巻き道は、雪渓あり、お花畑ありで結構楽しめるコースで拾いものの感があったが、途中で、かなりの急登が待ち受けていたのには参った。 なんのことはない、これでは三俣蓮華越えとさほど変わらないじゃないかと思いたくなる。
 とは言え、長い一日の行程を終えて、午後3時前に三俣山荘に辿りつくと、鷲羽岳や槍ヶ岳の雄姿が迫って見え、疲れも吹き飛ぶというものである(だったかな?)。

 三俣山荘は台風が近づいているせいか、例年よりすいていて、布団一枚に一人と言うこの時期にしては恵まれた状況であった。 烏帽子経由で水晶、鷲羽を縦走してきた女性5人のパーティやいろんな人と談笑し、明日の早立ちを意識して早々に眠りに就く。

 太郎平から、鏡平までの行程で撮った「槍ヶ岳の写真」を別ページにスライドショーにしました。

 2007年8月2日 三俣山荘ー双六小屋ー西鎌尾根(樅沢岳)-双六小屋ー新穂高温泉ー平湯温泉

 朝4時20分、弁当の朝食を済ませて、三俣山荘を出発。 三俣蓮華への道が結構にぎわっている。 昨日の疲れからは完全ではないにしろ、かなり回復している。 そうは言っても、朝一のかなりのアルバイトである。 天気予報では、曇りとあったが、結構晴れていて槍の穂先も姿を見せている。 2時間余りで双六小屋に到着。

 双六小屋でしばしの休憩をとり、西鎌尾根に取りつくときになると、若干雲行きが怪しくなり、強い風が吹き付けるが、まだ青空も見え何とかいけそうな天気であった。 山小屋で聞いた予報では、午後からは曇りか雨、明日は雨であった。 とにかく早く着かなければという思いで、樅沢岳への急登にとりついた。 結構きつい登りであるが一気に登る。 しかし、登るにつれ風はますます強くなり、突風気味に吹くと身体ごと持っていかれそうになる。 しかも、ガスも出始め、あっという間に周りの山々が雲に隠れ、樅沢岳頂上に着いたころには、冷たい小雨まじりのガスが強い風に乗って吹き付けてくるようになった。 視界ゼロの状態に近い。
 これ結構やばいなと言うことになり、しばし木の陰に隠れる。 ほかに登山者は全く居ない。 天気予報も悪いことだし、こんな状態で進んでも面白くないし、しかも危険である。 たとえ槍に着いても眺望は期待できないし、明日は雨の中を下ることになる。 この先突き進むか、新穂高に降りて温泉にするか・・・同行の長野さんとの結論は・・・もちろん温泉であった。

 双六小屋に戻ると、昨夜三俣山荘で一緒だった女性のパーティが、上下カッパのいでたちで、「笠に行くのを止めて下ります」と言って賑やかに出発していった。 小屋でコーヒーを飲み、何となく消化不良の気分を払拭できないまま、下りにかかる。
 ところが、だんだん高度下げて行くに従って、天気が回復模様になり、鏡平についたころには、晴れあがって槍の穂先が見えるようになった。 これには本当にがっかり。 まったく、山の天気予報はあてにならない。

 快晴に恵まれた2日間の楽しい山行が、最後に水を差された形になったが、でも、間違った行動をとったわけではないし、ついていなかったとしか言いようがない。 トータルとしては、めったにない天気に恵まれた素晴らしい黒部五郎を制覇した満足感の方が大きいと言える。 平湯温泉で前にも宿泊した宿に投宿し、温泉につかるころになると、「あーー、満足」



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